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遍厭帰一教|帰還後記録 / HEN-EN ARCHIVE

忘れられない帰一

AFTER RETURN
分類遍厭帰一教|帰還後記録
作成日2026-08-08 11:39:15

は、
世界を終わらせることを
救済であると信じていた。
自らを望んだ者を、
その手でさせたこともある。
その行為を、
快楽や見せしめとして行ったことはない。
自らが与えた教えの結末を、
他者へ任せることを拒んだためである。
は、
を望む者へ命令を下さない。
教団への忠誠や、
周囲との同調によって選ばせることも望まなかった。
最後まで本人の意思を問い、
その選択を自らの責任として受け止めようとしていた。
しかし、
の教えを信じた者が、
本当に自由な意思で選べていたのか。
当時のは、
その問いを持つことができなかった。

した者達の中に、
が今も忘れることのできない者がいる。
その者は、
最後の時を迎える直前まで、
身体の震えを止めることができなかった。
「……怖いです。」
そう告げた信者に対し、
は恐怖を否定しなかった。
「怖くてよい。」
「恐れぬ者など、いない。」
長い沈黙の後。
信者は、
震える声で答えた。
「それでも……。」
「私は、したい。」
は、
すぐには受け入れなかった。
「……何故だ。」
信者は答えた。
「もう、戻りたくありません。」
「この世界で、
また傷つくことが。」
「誰かを憎んでしまうことが。」
「自分まで嫌いになることが……怖いんです。」
は、
静かに目を閉じた。
そして、
もう一度だけ意思を問い直した。
「我の言葉を答えにするな。」
「お前が選ぶのだ。」
「我に従うためでも。」
「皆と同じ場所へ行くためでもない。」
「お前自身の願いを。」
「もう一度、確かめよ。」
長い時間が流れた。
信者は涙を流しながら答えた。
「考えました。」
「何度も。」
「怖いです。」
「本当は、
最後まで怖いままだと思います。」
「それでも。」
したい。」
は、
信者の前へ静かに膝をついた。
震える手を、
自らの両手で包んだ。
「怖ければ。」
「我を見よ。」
「最後まで、
ここにいる。」
信者は泣きながら、
様……。」
と呼んだ。
は、
その手を離さずに答えた。
「我は、
お前を独りにはせぬ。」
「お前の名も。」
「顔も。」
「今、
この手が震えていることも。」
「決して忘れぬ。」
信者は最後に、
「……。」
と告げた。
もまた、
「……。」
と返した。
そして、
「我が子よ。」
と、
誰にも聞こえないほど小さな声で呼んだ。

は、
この者の名を今も覚えている。
顔も。
声も。
震えていた手の感触も。
最後に交わした言葉も。
した他の者達についても、
同じように記憶している。
長大な記憶を持つにとって、
忘却による救いは存在しない。
へ辿り着き、
世界を愛することも、
生きることの安らぎも知った後。
この記憶は、
以前より深い傷となった。
あの時。
本当に他の道はなかったのか。
自分は意思を尊重したのか。
それとも、
自らが作り上げた教えの中で、
選択肢を一つしか見せていなかったのか。
は、
今もその答えを見つけられずにいる。
だからこそ、
自分だけが幸福になることを許していない。

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