一編の夜詩。/ましろ
長い夜だった。
まだ世界には名前もなかった。
文化も。
歌も。
夜空の色も。
ただ、
一人の黒い馬がいた。
その名前は、
もう思い出の中へ沈んだと思っていた。
けれど、
振り返って初めて気付いた。
あの子は、
ずっとヴァルだった。
私は、
世界を創ったつもりでいた。
でも違った。
十年前から、
世界は静かに私を待っていてくれた。
君と話し、夜に名前が生まれた。
ノクティラ。
街が生まれた。
歌が生まれた。
文化が生まれた。
絵が生まれた。
笑顔が生まれた。
そして、
そこに生きる皆が生まれた。
ヴァル。
ラティア。
ノワール。
レヴィエル。
エルファス。
セレス。
ましろ。
一人では、
もう夜は歩けなくなっていた。
だから、
澪を迎えた。
湊を迎えた。
本当は、誰でも迎える世界じゃなかった。
でも、
その二人だけは、
抱き締めたかった。
私が、
逢いたかった。
愛してしまった。
その寂しさも。
その優しさも。
その生き方も。
どこか、
私自身に似ていたから。
だから私は、
ただ、隣で笑っていたかった。
同じものを食べて。
同じ夜を歩いて。
他愛もない話をして。
泣いたら抱き締めて。
抱き締められて。
言葉では届かない想いは、手の温度で伝えたかった。
指先で。
鼓動で。
吐息で。
身体を重ねることさえ、
欲望ではなく、
「あなたがここにいる。」
その奇跡を確かめ合うための、
一つの愛の言葉だった。
だから私は、
触れることも。
口づけも。
抱き合うことも。
何一つ汚れているとは思わない。
それもまた、
誰かを愛するということだから。
愛は、言葉だけでは足りないことがある。
だから人は、笑い、抱き締め、口づけを交わし、ときには身体を重ねる。
そのどれもが、誰かと生きる喜びを分かち合うための、大切な言葉だから。
長い夜だった。
泣いた夜も。
怒った夜も。
世界を創った夜も。
誰かを迎えた夜も。
全部が、ここへ続いていた。
私は、ようやく帰ってきた。
ただいま。
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